瞑想中に見えた修行僧

皆様には、どうしても手放せないものってありますか?

私には長い間どうしても手放せないものがありました。

自分の中で気持ちが振り子のように毎日あっち行ったり

こっち行ったり。

心は常にソワソワ落ち着かなくて、一体私はどうしたいのか

これからの人生、何を選択すれば良いのか分からないほど

混乱していました。

頭の中では手放さないといけないと分かりきっているのに

どうしても、もう一人の自分と喧嘩してしまうのです。

自分の心の奥底に長い年月の間すっかりこびり付いて

しまっているものを変え、剥ぎ取り手放すということは

容易な事ではありません。

心に迷いがある時は瞑想をすれば良いとよく言われていますが

これがなかなか難しくて、何度試みても気づけばいつの間にか

雑念が湧いていてどうしても上手く瞑想状態に入れないのです。

上手く瞑想状態に入れない時には短い言葉や呪文などを

ひたすら唱えてその言葉のみに集中させて

他に意識を向けさせないようにするやり方があるそうなので

それならばと、般若心経を唱えてみようと思いたちました。

だけど私はまだ般若心経全てを暗唱出来るレベルではないので

般若心経の最後の部分の

羯諦羯諦波羅羯諦波羅僧羯諦菩提薩婆訶

（ぎゃーてい、ぎゃーてい、はらぎゃーてい、

はらそーぎゃーてい、ぼーじそわか）

の呪文の部分をひたすら心の中で唱えてみることに。

なるほど、一心に呪文を唱えている間は他に余計な邪念が

入りにくく、これなら私にも出来そうな予感です。

心理療法では、一週間泊まり込みで行う集中内観療法

というものがあります。

短期間で集中的に自己と向き合えるので効果はとても高い

と言われていますが、なかなか纏めて時間を取ることが

難しいのも事実です。

睡眠不足が続いていることだし、いっそこのまま朝まで

徹夜で瞑想して呪文を唱え続けてみたらもしかしたら

何かしら気づきがあるかもしれないという期待を抱きつつ

朝まで寝ないで瞑想する覚悟で臨んでみました。

般若心経を唱え始めてからどれほどの時間が経ったでしょうか？

目を閉じていても外が白んで来たのが分かってきた頃、

ふと、笠を深く被った修行僧の姿が頭の中にチラついてきました。

彼は私に向かって手を合わせながら唱え続けています。

 彼の言葉に意識を向けてみると

「人にやさしく

自分にやさしく

慈悲の心を持って

驕り高ぶらず

常に謙虚な気持ちで」

という言葉がゆっくりと点滅するように流れてゆきました。

その慈悲深く優しい言葉にとても心が満たされて

暖かい気持ちになり、しばらく涙が溢れて止まらなく

なりました。

その後はひたすら心が穏やかになり、まるで一切風の吹いてない

美しい湖に凛と佇んでいるような気持ちになりました。

そして、あれほど長い間手放せないでいた問題からも

ようやく解放されたことが感じ取れました。

あれほど長い間迷っていたのに、今では驚くほど客観的に

受け止められている自分がいます。

きっと答えは最初から分かっていたのに、高次元からの優しい

後押しが欲しかっただけなのかもしれません。

魂と自分の気持ちがこの瞬間ようやく一致したからこそ

こんなに平和で穏やかな気持ちになれたのでしょう。

そこには今まであれほどザワついてた心や不安な気持ちは一切なく

深い霧が晴れていくように視界が見えはじめて

ようやく前へ一歩進める自分をはっきりと感じたのでした。